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酒本敬子 個展
10/4/30(Fri)〜10/5/4(Tue)

茅ぶき屋根を描く

 

酒本敬子さんの絵はわかりやすい。具体的で鮮明だ。描かれた風景は既視観がある。誰でもこういう場所をすでに知っているような気にさせられる。
5度目となる今回の個展には32点を展示する。うち17点は、山里の茅ぶき屋根の民家だ。四季や角度でそれぞれに違う表情を見せてくれるが揺るぎない構成があって、詩的な情緒がただよう。まさに既視観を持って胸を打つ。
茅ぶき屋根は、酒本さんの大切なモチーフである。力強いテーマと言っていい。地元(智頭町)で2度目の個展を企画したとき「少なくなった茅ぶきの民家を描き、残してみたら」と入場者にすすめられたのが契機となった。
20年がたつ。近年は、山陽や京阪神にまで遠出して民家を描く。山里の風景が変わりつつあるのを実感するという。
緑がみずみずしい「新緑の民家」(F10号)を見てみる。おっとりと明るい入母屋風の茅ぶき屋根である。棟を飾る置き千木、生活がにおい立つ障子や明かり窓や縁側、高く澄んだ青空、緑が光る木々、赤や黄色の小さい草花、さわやかな初夏の風、そしてT字形に結ぶ野道。画面いっぱいにこれらのすべてが生き生きと呼吸し、調和と安らぎの中にある。
彩度は高い。目にしみる。小鳥の声も聞こえてくるようだ。酒本さんは絵筆を持って風景に近づき、描きながら自分自身を風景と一体化させようとするのか。
個展には多鯰ヶ池や大山、バラなどの作品も並ぶ。いずれも奥行きのある深々とした感性にみちている。私たちはいつの間にか大自然に溶けこみ花々の中をさまよったりする。
絵だけではない。会場にはろうけつ染めの作品も展示する。「ひまわりと仁風閣」「杉太鼓」(共にF80号)に、まず息をのむだろう。一見したところ絵よりも単純だが、軽みや深みや輝きを備えた堂々たる染色ぞろい。「絵を描くための手すさび」と控えめだが、決して半端ではない。
グループ「彩」に所属、新協美術会会員、鳥取県美術家協会会員。山陰新協展で米子市長賞を受賞。智頭町に住み、離れのアトリエでこどもたちと粘土をこねたり絵を描いて楽しむ。そして時折、自分に語りかける。「やさしさの中にも凛とした絵を描きたい」
(文芸誌「断層」同人・須崎俊雄)

新日本海新聞 2010年4月30日(金)記事より